ドラマ『石子と羽男 -そんなコトで訴えます?- 』
面白かった。
全10話を通して、社会で起こるたくさんのテーマがギュッと濃密に詰まって、石子と羽男を中心としたコミカルなやり取りと展開の巧妙さも見応えがあり、つい現実で起こっていることや別の作品まで思い出して考えてしまったり、充実した内容が本当に楽しめた。
街に住む人々に起こる目立ちにくい問題から発展して本当の問題につなげたのが意外に思えたし、石子と羽男がそれぞれ抱えていた問題を補い合って乗り越えていこうとする姿や、男女だからといって必ずしも恋愛に発展しない二人の関係性は見ていてとても爽快だった。
テレビなのに、まるで中村倫也さんと有村架純さんが目の前のステージに立っている舞台を座席から見てるような感覚になった会話は本当に面白かった。綿郎さん、蒼生くん、塩崎さんも一緒の5人の会話もずっと聞きたい。
10話羽男さん
・蒼生くんと拓くん、石子さんまで被害にあって、さすがに10話中一番事件解決に向けて本気度、怒り度が高かった。丹澤に対抗する時に見せていた顔芸ではなく、御子神には本気の怒りをにじませた眉よせ睨み目で近づいたのを見てテンションが上がった。その後のタバコポイ捨て現場で、それはどうかな?と言った時も絶妙な表情が良かった。
・意外にお父さんがあっさり諦めてくれて、和解?すれ違いが解消されて驚いた。本当に見たいものだけを見たいように見るお父さんだった。キリっと一礼する羽男さんのいろんな感情が含んでいる横顔が印象に残った。イッセー尾形さんと中村倫也さん、MEGUMIさんが家族という最高に豪華なキャスティングで嬉しかった。(石子ちゃんを見たお父さんが、羽男さんと石子ちゃんの関係を勘違いしたような気がする)
・ちょいちょい狐晴明九尾狩の晴明先生を思い出す小ネタやセリフの言い方笑
・塩崎さんをハグする直前の気持ちの溜め的な間が良かった。突然抱きつかれた塩崎さんの反応と顔が最高だった。とても力強いバックハグでした。塩崎さんというか小田さん良かったですね。そして倫也さんは小田さんのことめちゃお気に入りなのが会見や放送前ツイから思ってたけどハグの力強さからも伝わってきた。
・10話の言動やすっかりマチベンの羽根岡先生になってる佇まいから、綿郎さんのモットーそのものを体現していたことに感動。
・爆盛り丼を二人で食べながら弱みを認めたことを落ち着いて言葉で石子ちゃんに伝えられたのも、1話で虚勢張って言い争ってたことを思うと何回脱皮したのよ!?ってぐらい変化していて、クスっと微笑ましく笑える会話なのに涙が止まらなかった。
・司法試験へ向かう石子ちゃんへ絶妙なタイミングで日傘差し出すの反則‼︎笑
石子ちゃんに初めて会った時みたいに隠れて待ってたんですか?とつっこまれたのも笑えた。ここもまた1話との対比ができて良かった。良かったです本当に。
・配信の塩介と甘実で、石子と羽男のその後が見れた。良かったねという気持ちと、二人の立ち位置、距離の近さがなんともまたエモい二人よ…と思った。
・石子と羽男は尊い。弱みを打ち明けることができて、支え合いながら前に進む姿が希望に満ち溢れていて本当に良かった。
・中村倫也さんと有村架純さんがそれぞれ最終回放送翌日にSNSに投稿した同じ写真、3話終盤の公園で石子と羽男が横に並んで立ってる後ろ姿がさらに尊すぎて泣けた。ずっと心に残るキャラクターになった。
9話で石子ちゃんがそばにいなかったから手が震えたと言ったあと、妙な雰囲気になりかけていることに気づいて自分で止めたり、部屋に入れる時に何にも起きないでしょと言ったセリフ、10話で石子ちゃんにこれからも(相棒として)そばにいてと言ったら石子ちゃんにおもしろおかしく引かれて拒否られた様子をわざわざ見せたのは、恋愛関係を期待する視聴者への配慮か、これからの男女キャラの描き方はこう変わっていくんですよ、恋愛ではない男女バディものを描くにあたり今はその変遷期ですよ、とその過程を見せてくれたのかなと思った。
ただ、石子ちゃんは身体のことや内面の大事なことを羽男さんには話していて、蒼生くんと話す場面が無くて大丈夫かなと思っていた。拓くんの書を二人で見に行ってる時の雰囲気がとても良かったから、描かれていないところで蒼生くんとの感情の共有はちゃんとできてると思うことにした。
石子ちゃんやゲストキャラクターの女性たちは、日本の中で生きていく上でぶつかる問題と、その問題に対してへこむことなく前に進める可能性を表現してくれたと思った。でもやっぱり苦しさからすっかり解放されることはないのかと少しモヤモヤ考えたり…。
蒼生くんや塩崎さんに強く抱きついたとても情に厚い羽男さんが、石子ちゃんにはハグしなかったのは、心底紳士ゆえなのか、めちゃくちゃ我慢していたのか。塩介と甘実で店に電話をかける前の二人のやり取りを見たかったなとちょっと思う。
現実を思い出して違和感があったこと。
社会の中では力が弱い人たちでも、声を上げれば前に進める可能性があることを描いてくれたが、現実の経験で濁り切った目と頭で見て、さらにはここ数年で見聞きしたいろんなニュースやSNS内での罵詈雑言ですっかり疲弊している気分もあって、ドラマ内で良いお話としてきれいにまとめられる部分に違和感を感じてしまい、どうしても乗り切れずにモヤモヤした気持ちも多々残った。
10話で御子神がたばこポイ捨てで捕まった後、SNSで叩かれてイメージダウン、理事をクビになって終わったのがなんとなく不安になった。
御子神がやってきたことは批判されるべきことで権力と財力を持たせたくない人間。でもシンプルに庶民の声でやっつけた勧善懲悪みたいな締めくくりがゾッとした。
1話でパワハラをした上司にあなたも会社を訴える権利がありますと描いてスタートして、双方向に描いていくと想像していたからかもしれない。週末夜のエンターテインメント作品だから、わかりやすい裁き方がスッキリ盛り上がるだろうけど…。
議論を超えて、一斉にSNSで容赦なくそれぞれの正義感で叩く人たちの多さと、その叩き方がまるで集団リンチのようだと思うことがあったから、画面いっぱいに批判ツイートで埋め尽くされたのが変に声を上げろと煽ってるように見えて、ちょっと危険かも…と思ったり。
うっかりすると自分も攻撃の加担者になっているから使い方を考え直している。
法の隙間をかいくぐる術を持つ御子神のような人間を裁くには、弱いながらも小さい声をたくさん集めてNOをつきつけるしかないかもしれないが、それだと事実関係を明らかにしない伝聞や推測、問いただしたい原因と違う理由で一時的に社会からキャンセルされる形になってしまい、本当に問題の解決になるのか疑問に思う。
"リーガル"エンターテイメント作品だから、現実的ではないけどできればあと30分拡大して御子神の本当の問題を法の下で明らかにする場面かセリフがほしかった。
全10話のうち、一番心に響いたのは3話と4話。
Twitterで知ったのだけど、他の回でも面白い展開と思っていた話の脚本・取材チームに参加されていた高矢航志さんの作り方がわたしのツボに合うのかもしれない。次に参加される作品があれば見てみたい。
わたし個人が現実で気になっているのは、結婚未婚、子供ありなし、同姓別姓、異性同性無性、出身地域、どんな形の生き方を選んだ人であれ、ある程度の公的な権利が平等になっていないと思うことが多いので、いま起こっている訴訟がどんな議論になっていくのか。
この先も似たような感覚を持つ人は現れるだろうし、何百年かかったとしても、苦しい議論になっても、少しはマシな方向に向ければと願ってる。
超個人的には終活に向けて、一般的とされている家族は持てないだろうから、本気でわたしみたいな人間の話を聞いてくれる専門家、カウンセラーや法律、税務の専門家を探してみようと考え始めてる。
羽男さんや石子さん、綿郎さんのいる潮法律事務所のような、気軽に訪ねられる事務所がある街はどこにありますか?