lensdiary

日記。観たもの、聴いたもの、読んだものについて思い浮かんだこと。感想はネタバレを含んでます。

仮面ライダーBLACKSUNを観ました

『仮面ライダーBLACKSUN』 全10話

2022.10.28 0時~ AmazonPrime配信(世界同時) R18+

 

仮面ライダーに詳しくない人間が見て思ったこと。

 

キャストさんへの感想は信彦中心に少しだけ。マイノリティの扱い方に強いショックを受けたので、そっちの感想が多くなりそう。

 

特撮は詳しくない。映画はジャンルにあまりこだわらず、好きなものを見てきた。

3, 4歳頃、女で生まれたのに、なぜか仮面ライダーを見たい、人形を買ってほしいとせがみ、リカちゃんとR2-D2(映画スターウォーズのロボット)を住まわせていたドールハウス仮面ライダーを迎えて、独り言を言いながら遊んでいたらしい。その後、すでに放送が始まっていた銀河鉄道999に途中からハマり、仮面ライダーは熱心に見なかった。BLACKも流れでなんとなくテレビで見ていて、男二人の物語にうっかり涙を流した記憶はある。それからたまにしか見てなくて、ひさしぶりにドラマとして面白いなと思って見たのが、クウガ。脚本の方が気になって見たフォーゼと鎧武。その程度。

 

個人的な暴力や社会に対しての考えは後で書く。

 

配信までに予習復習として観た作品

仮面ライダーBLACK

若松孝二監督作品「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」「天使の恍惚」

 

 

仮面ライダーBLACK SUN 公式WEBサイト|仮面ライダーWEB【公式】|東映

 

youtu.be

 

全体から受けた印象:作品内と作品外の人、視聴者も含めて、それぞれの群像劇になっている。これまで積み上げてきたことを、次の新しい作品に繋げて作るための転機になる作品なのかも、と思った。

あと、作る人たちの『自分たちが仮面ライダーBLACKを新しく作ってるんだ♪』みたいなワクワクウキウキ感が、全編から伝わってきた。ただ、その楽しい雰囲気と、マイノリティの記号的な描き方のギャップに、どう反応すればいいのか戸惑い苦しくなった。

 

正直なところ、スタンディングオベーションしたい部分と受け入れたくない部分の両極端な気持ちがある。でも、若いキャストさんたちから、これから先の希望は感じられた。

 

100点満点として

・全キャストさん(エキストラさんも含む)⇒5億点

(30分ぐらいスタオベしたいぐらいな感動)

 

・10話の信彦、絶命前後の中村倫也さん⇒10億点

※信彦の全人生の明暗ひっくるめた幕引き、絶命の瞬間の美しさ、素晴らしさに息をのんだ。

 

・スーツや怪人造形⇒100点

・撮影、映像効果⇒90点(もうちょっと血多めにしてほしかった)

・アクション⇒90点(ほぼ良かったからもうちょっと長めに見たかった)

・衣装、メイク⇒100点

・脚本というか演出なのか企画のテーマなのか…⇒40点(ごめんなさい。マイノリティの描き方など受け入れたくない部分のショックが大きくて…)

 

1話スタートしてから、2022年の、西島さんのやさぐれ感、捕獲されてる中村さんの磔にされたキリストのような風貌(身体はしっかり鍛え上げられていて好感度高い)が、一瞬映っただけでセリフを言い始める前から存在感と説得力があって、一気に世界観に惹き込まれた。

 

1972年の中村蒼さんも、どこか西島さんの内面から醸し出される真っ直ぐな雰囲気と似ていて、世間のことをまだよく知らないけど清濁併せ吞むぞみたいな心意気と自分の信じる正義を基に行動できる勇敢さがあった。

 

バッタ怪人変身時のエフェクトがカッコよくて、配信直後深夜に見ていたテンションも伴って、眠気が吹き飛んだ。

その後、話が進んだ時にお二人がさらに変身する動作と姿は、仮面ライダーに詳しくないのに思わず完璧‼と思ってしまうぐらい、カッコよくてシビれた。

 

光太郎と信彦から受けた印象は、西島さんと中村さんがいろんなメディアのインタビューで語られているとおりだった。光太郎について、自分の思う大義のために良くも悪くも行動する雰囲気。ピュアな信彦についての中村さんのコメントは特に秀逸で、見ながらそのコメントも思い出して何回か笑ってしまった。あと72年時代の森の中で、中村さんリアルしいたけエピソードのセリフ…笑。

 

中村さんのコメントも含めて見ながら思ったのは、信じたいもの、護っていきたいものの対象は違うけど、盲目的な言動がどこか近しいような信彦とビルゲニアの行動の差は、対象への湧き上がった性衝動があるか無いかの違いなのかな…。光太郎はその辺も、現実の状況と併せて冷静に考えられる人なのかも。(BLACKの文脈関係なく、あくまで本編から受けたわたしの印象です)

 

10話で信彦が”あの頃に戻りたい”と涙を流した表情を見て、わたしは何故か安心した。光太郎と本気で殴り合い、ようやくバッドトリップから抜け出せて心から涙を流し、仲間の喪失と時代の変化を受け入れた様子が、信彦にとってやっと殻をやぶれたように見えて、とても良いラストだと思った。結局、自ら命を絶ってしまったが…。

中村さんはアホなぐらいピュアで可愛い奴だの童貞だのとコメントされていたけど、その純真さを哀しみに覆われてしまった故の内から放たれる鈍い光のような雰囲気が、新月や月蝕の時の光を表しているようで、あと、絶命時の目の動きと気配消失の様子は、月光が雲で覆われていく瞬間のような美しさだった。

 

ビルゲニア・・・ひたすら信じるものを護って永く生きていたかったんですね…。

ビシュム、狡猾さがステキ。次を期待できる。

ダロム、バラオム、…長年のお勤め、お疲れさまでした。ゆっくり休んでください涙

くじらさん、こうもりさん、ノミさん。出てきたら妙に安心した。Twitterでどなたか書かれていたけど、3人がブラックサン!と名前を呼び続ける場面は、ブラック"さん"と敬称をつけて呼んでいるように見えて、わたしはちょっとほっこりした。

 

葵ちゃん、俊介くん、信彦を支持した若者たち、一番嫌な目にたくさん合ったのに心が強くて希望を感じた。葵ちゃんがカマキリに変身するのは、昆虫としてのカマキリのメスは交尾後オスを食い殺す話を思い出して、バッタよりぴったりだと思った。男のロマン的な争いに浸かって傷つけあってる者共を容赦なくバッサリ倒せそうで、この世界観の中で最強だと思ってスッキリした。MCUのキャプテンマーベル並みに強くなって、葵ちゃんだけいればこの世の混乱を無くせるぐらいに暴れてほしい。

※個人的な暴力賛否どちらかの考えは後で書く。

 

ゆかり、先鋭的だけど気だるそうでもある雰囲気が最高。セリフが物語全体とこの作品に込められたメッセージそのものだった。ハニトラだけど、信彦と光太郎に言ったことは本心も含まれていたと思いたい。

"私たちは特別じゃない。

遺したものを誰かに受け継ぐ通過点にしか過ぎない。"

 

 

キャストさんから受けたワクワク感の楽しさと対照的に、この場面ちょっと笑えるように作ってるんだろうけど笑いたくないな…と思った場面や、差別問題の描き方への拒否反応とで、そのギャップに苦しくなった。

 

 

ちょうど1年ぐらい前に、このインタビューを読んでいた。👇

「孤狼の血」は日本映画界に前例のないシリーズとなるか?白石和彌監督が“続編”を作る意義【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】 - 3ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS

 

映画「孤狼の血2」公開後のインタビューで、仮面ライダーBLACKSUNのことも触れていて、とても興味深いお話だった。MCUのような、エンタメと社会的なテーマを取り込んだ作品を作りたくなっているとコメントされたのを読んで、BLACKSUNのイメージは、ウィンターソルジャー、シビルウォーみたいな感じのものを目指されているのかなと思っていた。

 

本編は、予想以上に世界中にあるいろんな差別や、戦前戦後の暗部を盛り込んだ内容だった。ただし、それぞれの差別を取り込んだことは良かったと思っているが、その問題をストーリーの時間軸にラベルとして貼ったようにしか感じられず、当事者目線など、もう一歩踏み込んだ演出が欲しかった。

 

どうして物語の中で特定の人たちが差別されるのかがわからない描き方で、怪人にされる人、ヒートヘブンにされる人は、大多数の人が無意識に”差別されるもの”と認識するよう誘導していて、当事者から多数の人たちへ、その認識が間違っていると訴える演出が無く、一方的に攻撃や捕獲・収監されてしまう描写にとても強いショックと怒りを感じた。

 

わたしが思ったBLACKSUN内で構成されるヒエラルキー

上級人間(内閣構成メンバー)

上級怪人(改造人間)

中間層人間

下級怪人(改造人間)

下級人間(独居老人、生活保護者、子供を作れないLGBTQ)←2話堂波のセリフから

 

2話ヒートヘブンの製造説明で、LGBTQへの間違った説明と収監されているキャラクターの扱い方を見て、アセクシュアルを自認しているわたしはとても強いショックを受けて、以降、吐き気が止まらなかった。家庭を持ち、子供を育てている人もいる。現実で”非生産的”と表現した人や性的マイノリティは隠れて静かにしていてくれと言った人たちの言動をベースに、都合の悪い人間を一方的にしか見ない堂波の誤った認識から出た言葉として作られたセリフならいいが、どうもそうは思えなかった。話が進んでも、訂正、対抗するような演出が無い。制作側も無意識に、あの人たちのように低く見ているのかと疑ってしまう。

 

できるだけ否定的な見方をしたくないので、無いものどおしがぶつかって有機的なものが作られる化学反応とした設定など、見方を変えて不快感を飲み込もうとしてみたが、どうしても悔しさが消せず、受け入れられない部分として書き残すことにした。

 

10話まで見ても、一方的に攻撃、逮捕される場面が続いた。アメリカで起こった、警官が理由なくある人を逮捕して起こった事件のような演出まで入れられていた。

 

10話終盤で驚いたのが、スケートボードに乗った少年たちが怪人の女の子を差別的な言葉でからかうシーン。スケートボードアメリカで、地位もお金もない人たちが路上で作っていったカルチャーや居場所になっている象徴的なもの。そのテーマの映画もたくさんある。

スケートカルチャーで知るアメリカの若者のリアリティ いま観たい最新スケボー映画3選 | ぴあエンタメ情報

そのことが頭にあったから、スケートボードアップから少年たちが女の子をからかう映し方が、まるで居場所を踏みにじっているように思った。日本に入れば、海外での背景を無視してマジョリティのステータスを示すものにすり替わるという演出なのか、どういう意図なのかが全くわからず、不快感だけが残った。

 

個人的に、2022年に入って報道されたLGBTQに対する厳しい視線や裁判結果に、カミングアウトは誰にもしないから、勝手にひとりで精神的に疲弊していて、差別問題の取り扱い方に必要以上に反応してしまったと思う。でも、社会的テーマを取り込んだ作品内で、バカにされるポジションの集団として一方的に描かれたことが、フィクションであってもとても悔しくて悲しい。

 

白石監督は本作品のインタビューで、現実の問題をエンタメ作品に落とし込むことは子供たちが将来あの時こんなことがあったのかと気がつくようにするためのプレゼントだと言われていた。それなら、LGBTQを自認した若者が18歳以上になってこれを観た時にどう思うかなど、どこまで考慮されて、子供を作れないLGBTQという言葉を選んだのかを知りたくなった。でも、いまの公式さんのグッズ展開や、ダイナーでヒートヘブンをメニューに入れるようなノリで盛り上がってる様子を眺めていると、その視点でのインタビューは無いかもと諦めてる。

 

 

配信後からTwitterで政治思想の左が強い…などのツイートが増えた。

差別描写に対して文句を書いたわたしは左なのか、どっちなんだと聞かれたら、どっちでもないと思う。

というか、二極のどちらかに偏って入れられるのは、まっぴらごめんです。

暴力については、解決できないことを力でどうにかしようとすることは反対だけど、歴史やフィクションでもいろいろ描かれているとおり、人は争いを止められないことが現実だから、完全に暴力が無い世界は100%理想の夢だとして諦めている。でも国のためだからとか言われて暴力に加担しろと言われてもしたくありません。

 

自分の考えを表すためにまったくの別作品、銀河英雄伝説が好きなのでそのキャラや設定で説明すると(わかる人にだけ伝われば)、

住みたいのは自由惑星同盟。でもトリューニヒトには投票したくない。救国軍事会議の考えや起こした行動は反対。ジェシカみたいな勇気ある行動に出られないけど、彼女の勇敢さを支持してる。一般人でありたいが、もし働くとしたら、キャゼルヌ、ビュコック、ヤン・ウェンリーの第13艦隊の下で仕事がしたい。

逆に、銀河帝国オーディンか帝国領域内の惑星で男に生まれたとしたら、ラインハルト支持、無駄がなく合理的な戦い方をするロイエンタール艦隊かミッターマイヤー艦隊に(事務処理的なオペレーターとして)入りたい。(ロイエンタールのその後の結果は……だけど、もし艦隊に入っていたら最期までついていく)

フェザーンは、流動的な雰囲気がわたしに合うような気がして憧れる。

カルトしかいない二酸化炭素だらけの地球に住むのは絶対イヤ。無理。

どっちつかずのよくわからない頭をしてるけど、自分の考えは誰かに流されているだけかもと疑う事もせず、自分と違う特徴を持った人を一方的に排除する言動はしたくない思いは真ん中にある。

 

だから、BLACKSUNは、受け入れられない部分があるからといっても切り捨てることはしたくない。ここまで深く、現実的な問題や自分の考えを見つめなおすことになった、とても稀な作品になったと思う。

 

次回作はあると思ってる。

葵ちゃんとビシュムの戦いが見たい。

その時には、社会問題の描写を見て、必要以上に苦しむ人が出ないような描き方をしてほしい。